浦和地方裁判所 昭和53年(わ)1779号 判決 1979年7月06日
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、電気工事の請負施行を業とする小澤電気工事株式会社の代表取締役であるとともに、埼玉県電気工事組合行田支部並びに行田地区電気工事組合の役員であり、かねてから埼玉県行田市等発注の電気工事につき、その入札前に指名業者間の談合を概ね主宰するなど行田地区の他の電気工事業者に対し、多大の支配力を有していたものであり、小澤文夫は、被告人の実弟で、右小澤電気工事株式会社の専務取締役であり、博徒稲川会八木田一家の組員と行動を共にしていたことがあり、また傷害事件等で服役した経歴を有していたものであるが、
第一、被告人は昭和五一年八月九日ころ、埼玉県行田市から発注のあつた同市立下忍小学校屋内運動場新築電気工事の指名業者であるムサシ電機工業有限会社代表取締役吉田修(当四三年)ほか三名と共に、自己が主宰して談合をなし株式会社早川電工(代表取締役早川實)に落札することに決定していたところ、同月一二日に実施された入札において、右吉田が金額を誤記して投票したため右ムサシ電機工業株式会社が落札する結果となつたので、これに言いがかりをつけて右吉田から金員を喝取しようと企て、同日午後三時ころ、埼玉県行田市忍二丁目一八番三六号喫茶店「フオンテーヌ」において、右吉田に対し、その事実がないのに、「早川が落札したら俺が仕事をもらうことになつていた」「この件はどうするんだ」「早川も俺も不利益をこうむつたんだから金を出せ」などと語気鋭く申し向けて言いがかりをつけ、その後、前記小澤文夫に情を明かし、これに呼応した同人と共謀を遂げ、翌一三日ころの午前一〇時ころ、前記小澤文夫において、同市門井町三丁目二二番一〇号の右吉田方に電話をかけ、同人に対し、「色々兄貴から聞いているが三パーセントで仕事をうちに渡した方があとあとのためにいいんじやあないんか。間違つたら間違つたでいいがこれが業者のしきたりなんだ。仕事を俺の方に渡した方が身のためだぞ」などと語気鋭く申し向け、更に、翌一四日ころの午前一〇時ころ、同市宮本一五番八号所在の前記小澤電気工事株式会社において、右吉田に対し、前記小澤文夫において、「電話で昨日も言つたが三パーセントで仕事をうちに渡すのがいいんではないか。その方が利口だよ。俺だつて兄貴と一緒に仕事をしているんだし、このままじやああんたのやつたことは勘弁できねえよ。僕のことは知つているだろう」などと、被告人において、「早川に一五万円払え。俺のところでこの工事をすれば七〇万円位もうかるはずだから七〇万円を俺に払つてくれ」などとそれぞれ語気鋭く申し向けて執拗に金員を要求し、要求に応じなければ、右吉田の身体・名誉等に害悪を加え、かつ、前記ムサシ電機工事有限会社の業務を妨害し、更に同社の信用を失墜させるなどしかねない気勢を示して右吉田を困惑畏怖させ、よつて、同月一七日ころ、前記小澤電気工事株式会社において、同人から、ムサシ電機工業有限会社代表取締役吉田修振出名義の金額五〇万円の小切手一通の交付を受け、同月二一日ころ、同市藤原町三丁目二番地四株式会社早川電工において、右吉田をして、前記早川實に、前同様振出名義の金額一五万円の小切手一通を交付させていずれも喝取し
第二、同年一一月一六日、埼玉県行田市において、同市上水道向町浄水場ポンプ室増築工事のうちの電気関係工事を競争入札に付することとし、その指名業者として右小澤電気工事株式会社、株式会社行田電設(代表取締役石川勝美)ほか二社を選定したところ、被告人は、右工事を右小澤電気工事株式会社において落札するため、右行田電設ほか二社の関係者である石川勝美(当四六年)ほか二名と談合したものの、行田電設が落札することを希望していた右石川がこれに応じなかつたため同人に威力を加えて右談合に応じさせ、公の入札の公正を害する行為をしようと企て、前記小澤文夫に情を明かし、これに呼応した同人と共謀のうえ、同月一七日午前一〇時ころ、同市宮本一番六号喫茶店「ローマ」において、右石川に対し、前記小澤文夫において、「これは組の方に一括して請負わせるようになつていたのを俺が分離発注にしたんだ。根まわしはしてあるんだ。指名業者のメンバーも俺が組んだんだ」「ぶん殴るぞ、この野郎。俺がこれまで言つてもわからないのか。ぶん殴るぞ」などと怒号し、更に、同月二四日午前八時ころ、電話で同人に対し、「決心がついたか。おりろ俺の方でやる」「大馬鹿野郎、あれだけ言つてもわかんないのか」などと語気鋭く申し向け、前記工事の入札について前記小澤電気工事株式会社が落札するとの談合に応ずるよう要求し、要求に応じなければ、同人の身体等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し、もつて、威力を用い公の入札の公正を害すべき行為をなし
たものである。
証拠の標目(省略)
(黒犯前科)
被告人は、昭和四六年一〇月一八日浦和地方裁判所熊谷支部で道路交通法違反、業務上過失致死罪により懲役一年に処せられ、昭和四八年七月九日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右の事実は検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は刑法二四九条一項、六〇条に、判示第二の所為は同法九六条の三第一項、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号に各該当するところ、判示第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により判示各罪につきいずれも再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から五年間右の刑の執行を猶予することとする。
よつて主文のとおり判決する。